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アメリカ人の健康意識

肥満になりやすく医療費が高いアメリカ

アメリカでは外食やスーパーなどで売っている食べ物の量が多く、日本の3倍近くあるのは普通で、ケーキやベーグル、ドリンクも大きいので、簡単に太ってしまいます。
さらにアメリカは1人1台が当たり前のクルマ社会。ほとんど歩くことがないため、運動不足です。大量の食事に運動不足だと、アメリカに肥満の人が多いのは納得できます。
糖尿病や高血圧、脂質異常症など肥満は生活習慣病と大きな関係を持っていることは周知の事実ですが、アメリカで生活習慣病になってしまうと大変です。
アメリカは日本の様な健康保険制度はなく、病気やケガで手術を受けると信じられなくらいの医療費がかかります。歯医者で歯の治療をすると何本かで3,000ドル(約43万円)が、普通に請求されるほど、日本の常識で考えると目が飛び出るくらい高額です。
アメリカでは法外に高い医療費を請求されて、医療費破産する人が珍しくありません。大企業や政府機関に勤めている人なら企業や機関が支払ってくれますが、そういうところに勤めていない人は65歳になって国が運営するメディケアという高齢者向けの医療保険への加入資格が得られるまでは、高い治療費を恐れて日々を過ごさなければなりません。そのため、アメリカではできるかぎり医者にかからずにすませようと考える人が多くいます。

健康への意識は高いけど、実践できていないアメリカ人

しかし、実際はどうでしょうか。
アメリカ疾病予防管理センターが2015年に実施した調査によると、全米18歳以上の29.8%がBMI30以上の肥満、BMI25以上の過体重を含めると65.3%と約3分の2が「太りすぎ」という結果がでました。
その原因はイメージ通り、アメリカンフードであるハンバーガーやフライドポテト、炭酸飲料などが肥満へとつながっています。
また、別機関の「International Food Information Council Foundation」によると、回答者の91%が健康的な食生活、94%がエクササイズを大切に考えており、ほとんどのアメリカ人は食と健康への意識は高いのですが、実際にエクササイズを実践しているのは55%、健康的な食生活をしているのはわずか24%でした。意識していることと、実践していることに大きなギャップがあるのです。
その理由が、意志の不足、時間の不足、資金不足を順番に挙げています。エクササイズをしないといけないのはわかっているけど、時間がないという声が多くを占めました。

アメリカの肥満対策

アメリカもこのままではいけないとさまざまな施策を行っています。

レッツ・ムーブ!運動

2010年に当時の大統領夫人だったミッシェル・オバマが始めた、子供たちの肥満解消を目指した国家プロジェクトを紹介します。
このキャンペーンは、子供たちの肥満を減らし、 健康的なライフスタイルを奨励することを目的としたものです。2030年までに子供の肥満を5%に減らすことを目標にしています。
学校給食の改善やアメリカの飲料メーカーを巻き込んだもので、キャンペーンを行った2011~2012年時点で2~5歳の子どもに占める肥満の割合は8.4%。この数字は2003~2004年の13.9%から大きく改善されており、一定の効果を得られたように見えました。しかし、対象を2~17歳に広げると2013~2014年の肥満の割合は17.4%と微増となっています。
研究者らは政策上の取り組みにもかかわらず、肥満の減少を示す証拠は得られなかったと結論付けています。2018年の小児科学ジャーナルによると子供たちの肥満は依然として増加しているそうです。

ジャンクフード税

これは炭酸飲料やスナック菓子、ファストフードに掛けられた税です。税率は5%の売上税に2%が上乗せされて購入時に支払う形です。
ただし、アメリカ全土ではなくアリゾナ州など3州にまたがる先住民居留地ナバホ自治区のみとなっています。
ナバホ自治区では九州の2倍ほどの広大な土地に生鮮食品を扱うスーパーが10件ほどしかありません。そのため、安く手軽に食べられるファストフードが多く消費され、肥満や糖尿病の割合を押し上げる結果となりました。
そこで、ナバホ自治区では健康的な食品の購入を促すため、野菜や果物の課税を2014に取りやめています。

スクリーンタイムの制限

アメリカではテレビ鑑賞やスマホ、タブレット、ゲームなどに費やす時間をスクリーンタイムと呼びます。
テレビやゲームの長時間視聴が与える影響については色々議論されていますが、ハーバード大学では肥満予防にスクリーンタイムの制限を提案しています。
大人の場合は1日2時間以下、子供も1日2時間以下に制限し、食事中はテレビを切ったり、子供部屋にテレビやインターネットに接続できるデバイスを置かないといった内容です。
アメリカではテレビ鑑賞やゲームの最中、ソファに座ったまま、高カロリーなポテトチップス等のスナック、糖分を多く含むジュースを摂る傾向にあること。
テレビ鑑賞中、高カロリーで不健康な食品のコマーシャルが多く放送され、食べたい衝動に駆られるといったことを理由に挙げています。

化学物質への不安が高まっているアメリカ

かつてガン大国とも言われていたアメリカですが化学物質を規制することでガン患者が減ったということから、食品への安全を気にしているそうです。
この傾向は日本でも同じですが、スーパーマーケットに行くとオーガニックやグルテンフリー、非遺伝子組み換えなど健康や安全性を訴えた文言が日本以上に押し出されています。
また、ここ数年では多数の企業が人工香料や着色料等の使用を中止、もしくは中止予定を発表しており、企業もビジネスチャンスと取られているようです。
アメリカの市場測定会社ニールセンの調査によると2011年から2015年の間にオーガニックとラベルがついた精肉の年間売り上げが44%、抗生物質不使用が28.7%とそれぞれ増加したとのこと。

アメリカにおける健康ビジネス

企業・消費者ともに健康への意識が高いアメリカでは、健康志向を商機としたビジネスが拡大しています。

フィットネスクラブ

健康維持には運動が欠かせませんが、アメリカではフィットネスクラブが多く見られます。フィットネスクラブでは年会費などを支払い、プールやジムの設備を利用したり、エアロビクスやヨガなどのレッスンを受けることができます。
アメリカの人口は日本の約2.6倍に対し、フィットネスクラブの会員は13倍と非常に多く、アメリカ人の6人に1人はフィットネスクラブ会員です。

健康関連食品の販売

アメリカ人の成人の約8割は何かしらのサプリメントを摂取しています。健康食品やサプリメントの市場規模は約3.8兆円と、日本の約5200億円に比べてその大きさがわかります。
高額な医療費のため、治療から予防に意識が変わっていることが要因のようです。

アメリカで広がる多様な食事スタイル

現在、アメリカではヴィーガンやグルテンフリーなど様々なスタイルが広がっています。

コーシャ

コーシャとはイスラム教徒のハラルのように、ユダヤ教徒が食べてもよいとされる「清浄な食品」のことです。ユダヤ文化から安全で高品質という信頼性が浸透し、健康意識の高い消費者を中心にニーズが高まっており、スーパーマーケットの商品の30%を占めるほど普及しているといいます。

ヴィーガン

肉や卵、乳製品などの動物系食品を一切食べない食文化です。植物ベースの食品の売上高はここ数年にわたって増加していますが、2018年から2020年にかけて植物ベース食品の総売上高は、約3倍の速さで成長しており、過去2年間だけで45%増加しました。

パレオ

石を削って作った石器を人類が使い始めてから農耕を開始するまでの時代を総称してパレオリシックと呼びます。パレオとはこのパレオリシックの時代の食事を再現したダイエットの総称です。
この時代の食生活を基礎としているため、調味料や砂糖類などは一切使いません。また、穀物や豆類も摂取しません。食べるのは肉や魚、卵などの動物性タンパク質、野菜、果物です。味付けは香辛料などのハーブを使い、油もキャノーラ油やコーン油、大豆油ではなく、オリーブオイルやピーナツオイルなどを使用することになります。

グルテンフリー

小麦に含まれる植物性タンパク質であるグルテンを避けるため、代替素材の豆類や古代穀物等を利用した食品です。小麦アレルギーやグルテンによる自己免疫疾患をもつ人向けの食事法でしたが、健康に良い、ダイエット訴求で市場が拡大しています。

オーガニック

アメリカでは1994年に制定された「ダイエタリーサプリメント健康教育法という法律が施行されました。この法律の目的はアメリカ国民の健康への意識向上と医療費の抑制で、サプリメントの規制を厳しくするというものです。
この法律によって良い食材へのニーズが高まり、オーガニックな農作物や卵、乳製品への関心が高まったとされています。
アメリカでは全米オーガニックプログラムという制度によって認証されているオーガニック食品があり、合成肥料や下水汚泥、放射線照射、遺伝子操作は使用しないなどの認可に基づいています。

こうした食事スタイルの多様化によって商品パッケージも様々な訴求がなされるようになりました。
この動きは小規模なレストランなどのローカル店も対策を練っており、ピザレストランのブレーズピザでは通常のメニューのほかに客が自分で具材や生地を選び、カスタマイズしてピザを作れるのが売りです。
ベジタリアンや食物アレルギーを持つ人のために徹底した機材の管理や各メニューの食材を記載したことで、客へのニーズに対応しており、人気となっています。
アメリカの健康志向は生活スタイルとして定着しつつあることから、企業もビジネスチャンスとして捉えていることがわかります。